はじめに
理系だけど、文系就職ってアリなのか? 商社を目指しているけど、総合商社じゃないと意味ないのか?
そんな風に悩んでいる人に向けて、この記事を書いた。
結論から言うと、理系で研究に違和感があるなら、商社は普通に”当たりルート”だと思う。ただし、向いている人と向いていない人ははっきり分かれる。
自分は化学系の大学院を出て総合商社を志望し、結果は全落ち。現在は専門商社で理化学機器の輸入営業をしている20代だ。
この記事では、その経験をもとに「理系が商社に行くリアル」を正直に書く。
結論:理系から商社就職はアリ。ただし…
- 理系バックグラウンドは確実に武器になる
- ただし「論理だけで動きたい人」はかなりストレスを感じる
- 結論:理系で研究に違和感があるなら、商社はかなり有力な選択肢
- 総合商社への憧れは否定しない。ただし、それだけを理由に目指すと自分がそうだったように痛い目を見る。
① 研究職でなく商社を目指した、本当の理由
化学は好きだ。今でもそう思っている。
ただ、「好き」にも種類がある。自分にとっての化学は、パズルとして面白いものだった。論文を読んで新しい知識を得ること、複雑な反応機構を理解すること、それ自体は純粋に楽しい。
でも、いざ自分が研究者としてそれをやるとなると、話が違った。
研究室での日々は、正直しんどかった。毎日実験を繰り返しながら、ふと思う瞬間がある。「今自分がやっていることは、本当に意味があるのだろうか」と。正解も不正解もわからない。成果が出るかどうかもわからない。何年もかけて、誰にも使われないかもしれないものを作り続ける。
論文を読めば読むほど、教員や優秀な先輩・同期と話すたびに、自分の研究者としての素質のなさを実感した。研究を生業にする自信がないし、したくもない。
それでも、ここまで積み上げてきた化学の知識は捨てたくなかった。研究者としての素質はないかもしれない。でも、この知識を武器にして戦えるフィールドは必ずあるはずだと思った。
そこで気づいたのが、**「文系の人が多い職場なら、自分の理系バックグラウンドがそのままアドバンテージになる」**ということだ。化学はもちろん、物理・生物・数学も一通り勉強してきた。専門外の領域にもアレルギーはない。文系職の人たちの中に飛び込めば、普通に戦えるんじゃないか。そう思った。
そして、商社が理系院卒の採用を強化しているという話を聞いた。「いけるんじゃないか」という、今思えばかなり短絡的な動機もあった。
一応、それらしい理由も考えていた。世界にはまだ誰にも見つけられていない、技術のダイヤモンドがある。理系の知識を活かしてそれを発掘し、人々の生活をより豊かにする仕事がしたい。商社ならそれができると。
……でも正直、次のセクションで話す「もう一つの理由」の方が、当時の自分には大きかった気がする。
② 総合商社を志望していた「もう一つの本音」
化学の知識を活かしたい、という理由は本当だ。でも、それだけじゃなかった。
総合商社には「ブランド」がある。高年収、社会的地位、就職難易度の高さ。就活生の間では一種の憧れの存在だ。自分もその空気に飲まれていた部分があった。
当時は「そんな理由で志望しているわけじゃない」と自分に言い聞かせていた。でも振り返ると、それも立派な志望動機の一つだったと思う。別に恥ずかしいことじゃない。高みを目指したいという気持ちは、エネルギーになる。
ただ、問題は「ブランドへの憧れ」だけが先行して、その会社で何をしたいかが曖昧だったことだ。面接でそれは確実に伝わっていたと思う。結果は全落ち。
今思えば、あの結果は必然だったかもしれない。
③ 専門商社で気づいた、理系の「強み」と「弱み」
総合商社に落ち、専門商社に入って働き始めてから、理系出身であることの意味を改めて考えるようになった。
強みとして感じたこと
理系出身の強みは、専門知識そのものよりも、専門的な視点で物事を深く理解できることだと気づいた。理化学機器の営業では、製品の原理や仕様を顧客に説明する場面がある。文系出身者がゼロから学ぶところを、自分はある程度の土台を持った状態でスタートできる。
もう一つ、地味だけど大きかったのが**「メンタルの耐性」**だ。ブラック気味だった研究室生活と比べると、社会人生活はびっくりするほど快適だった。拘束時間は短いし、給料はもらえる。研究室で鍛えられた耐性が、思わぬところで役立っている。
弱みとして感じたこと
苦労するのは**「正しさの基準が違う」**場面だ。
一つは単純な慣習の踏襲。「なぜこのやり方なんですか?」と聞いても「昔からそうだから」で終わることがある。理由すら存在しない。
もう一つはもう少し厄介で、客先が「今までとの連続性」を正しさの基準にする場面だ。現代の移動手段として車があるのに、「今まで馬を使ってきたからデータが馬基準で蓄積されている」という理由で馬を選び続けるようなイメージだ。より現実に近い新しい試験装置を提案しても、「過去データとの相関が崩れる」という理由で採用されない。現実との整合性より、過去との整合性が優先される。
自分が提案する側として「この方が絶対にいい」と思っていても、客先の論理には従うしかない。頭ではわかる。でも**「より正しい選択肢が採用されない」という事実は、やっぱりモヤっとする。**
そのモヤモヤと付き合いながら仕事をするのが、理系出身者にとって一番しんどい部分かもしれない。
④ リアルな数字(専門商社・20代営業職)
正直に書く。
- 年収:1年目600万弱 → 2年目700万 → 3年目800万弱
- 残業:記録上は月20時間前後。ただし出張・外出はみなし勤務扱いのため、実態はもう少し働いている。ホテルで仕事することもあるが、正直そこまで追いかけていない。
- 仕事内容:見積もり・技術対応・トラブル処理など、調整業務が大半。華やかな海外案件より、地道なメール対応が現実。詳しい働き方はまた別の機会で紹介したい。
総合商社のような巨大プロジェクトとは違う。でも年収は着実に上がるし、残業も少ない。生活水準としては十分満足している。これが専門商社のリアルだ。
⑤ 総合商社じゃないと意味ないのか?
結論から言うと、総合商社に行けるなら行けばいい。年収も知名度も上だし、否定する理由はない。
ただ、「理系の専門性を活かしたい」という軸があるなら、話は別かもしれない。あくまで外から見た印象だが、総合商社は投資・事業経営へのシフトが進んでいて、専門的な領域を深く扱う機会は意外と少ないのではという気がしている。むしろ専門商社の方が、理系バックグラウンドを直接武器にできる場面が多いと感じる。
この点については、また別の機会に詳しく触れたいと思う。
⑥ 全落ちした自分が、今思うこと
今の会社に入って、後悔はしていない。
専門商社という環境で、営業・調達・マーケティングと幅広い経験を積めている。理系出身という背景が、思わぬ場面で強みになることもわかった。あの全落ちがなければ、今の自分はなかった。
ただ、正直に言うと、「これが正解のキャリアだったのか」という問いは、まだ答えが出ていない。
総合商社への憧れが完全に消えたわけでもないし、このまま専門商社でキャリアを積むべきか、別の道を模索すべきかと考えることもある。
でも、それでいいんじゃないかと最近は思っている。キャリアに「絶対の正解」はない。全落ちも、遠回りも、すべて自分の糧になる。大事なのは、その経験をどう活かすかだ。
⑦ 理系で商社に向いている人・向いていない人
向いている人
まず前提として、マルチタスクができること。商社の仕事は複数の案件・顧客・タスクが同時に動く。一つのことに集中したい人には正直しんどい。
次に、お客さんの課題に真摯に向き合えること。ただし、ここには注意点がある。商社はあくまで商売だ。お客さんのためにすべてを捧げるのではなく、「どこまでやるか」の線引きができないと自分が消耗する。逆に利益だけを追いすぎても、長期的な信頼は築けない。そのバランス感覚が求められる。
それから、広く、ちょっと深く学べること。自分の専門領域だけで戦えるほど、商社の仕事は狭くない。化学・物理・生物・機械、時には法務や財務の知識まで求められることがある。一つのことを極限まで掘り下げる研究者タイプよりも、広い領域にアンテナを張りながら、必要に応じてちょっと深く調べられる人の方が向いている。
最後に、人に頼れること。一人で抱え込まず、適切に助けを求められる人。そしてコミュニケーションが取れること。陽キャである必要は全くないが、対人関係が極端に苦手だと、かなり消耗する。
向いていない人
基本的には上の裏返しだが、特に気をつけたいのが完璧主義すぎる人と適当すぎる人だ。
すべてのタスクを完璧にこなそうとすると、商社の仕事量では確実に回らなくなる。一方で、適当すぎるのも致命的だ。契約・仕様・与信まわりでミスが出ると、取り返しのつかないことになる。
要するに、「やばいやつ・変わっている奴」は向いていない。身も蓋もない言い方だが、これが一番正直なところだ。一般的なビジネスマナーと常識を持ちながら、バランス感覚よく動ける人が、この仕事では長く活躍できる。
まとめ:同じ境遇の理系就活生・若手社会人へ
理系出身で、就職先に迷っている人へ。
研究職が合わないと感じても、それは「理系失格」じゃない。文系職に飛び込んでも、理系の経験は必ず武器になる瞬間がある。
そして、志望先に全落ちしたとしても、そこで終わりじゃない。自分がそうだったように、別の場所で積んだ経験が、思わぬ形で未来につながることがある。
ただ、一つだけ言えることがある。「軸」を持て。 面接でウケる綺麗な軸じゃなく、自分の本音ベースの軸だ。自分がそれを明確にできていなかったから総合商社に全落ちした、という側面は間違いなくある。
その「軸の見つけ方」については、また別の記事で話したいと思う。
キャリアは、きれいな一本道じゃなくていい。
……と、自分に言い聞かせている節もある。 でも少なくとも、今の自分はこの選択を後悔していない。
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